【特集】藤枝四蔵

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藤枝は酒造りにとって重要な、豊富な水と米作りに適した肥沃(ひよく)な土壌により、江戸時代から酒蔵業が盛んなまちでした。現在藤枝市には志太泉酒造、初亀醸造、杉井酒造青島酒造という四つの酒蔵があります。いずれも歴史の長い蔵で、独自の手法とこだわりで深い味わいの酒を生み出し、全国の品評会でも高い評価を獲得しています。 今回は四蔵の蔵元に、酒造りのこだわりや、藤枝の土壌とお酒の関係についてお話を伺いました。

 

志太泉/志太泉酒造

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すっきりとした味わいの理由は、瀬戸谷の湧き水にあり!

明治15年(1882年)に創業した志太泉酒造は、藤枝市宮原(瀬戸谷地区)に酒蔵を構えています。こちらで作られている志太泉は、華やかな香りとすっきりとした味わいが特徴。瀬戸川の伏流水を使用した硬度3.4の軟水で、水の良さを生かした酒造りをしています。米は兵庫県と静岡県藤枝市(朝比奈・助宗地区)・焼津市で作られたものを使用。「藤枝は良いお酒を作ろうという気質があり、レベルが高いところで酒造りに携われるのはとてもうれしいことだと思っています」と代表取締役社長の望月雄二郎さんはいいます。志太泉は、1年間に1升瓶で8万本を出荷。酒質は静岡の風土と食に合うように作られており、出荷数は静岡県の中部地方だけで半数を超えるそうです。「うちのお酒を飲みたいと思ったら、ぜひ藤枝に来て飲んでもらいたいんです」と望月社長。

志太泉の酒造りに対するこだわりを聞くと、「少量ずつ丁寧に作っていること。また手作りの工程が多く、人の感覚を大事にするということも考えています」。酒造りの特徴は、「もろみを発酵させる時に低温でゆっくりと長時間かけて作る。製造方法そのものは普通酒も大吟醸もほとんど変わらないんです」と言います。また、「志太泉は日常で食事と一緒に楽しんでもらいたいお酒。カツオ、生しらす、桜えびや、新鮮な野菜にもよく合いますよ」と、志太泉と合う料理も提案していただきました。

最近では、純米吟醸の入ったワンカップに黒猫のプリントがほどこされた『にゃんかっぷ』の販売や、カシスを使った日本酒作りなど、日本酒をより身近に感じてもらうため商品開発も積極的です。

 

初亀/初亀醸造

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枠にとらわれない自由な発想の酒造り

藤枝市岡部町にある初亀醸造は、創業から380年を迎えた歴史ある酒蔵。明治9年(1876)に静岡市から移転して現在に至ります。岡部町は東海道五十三次の宿場として栄えた街でもあり、ここ初亀醸造にも旅人が立ち寄りお酒を飲んでいったそう。お酒は心身ともにストレスを癒すもので酔うことが贅沢とされていた時代。コップ1杯のお酒が現在の値段に換算して6000円だったといいます。

初亀酒蔵の酒造りは、箱麹という方法で麹を作るのが一番の特徴。「普通酒から大吟醸まで全部一緒の麹を使っています。いい麹を作らないといい酒が作れないと代々言われてきたので、麹は昔から機械を使わずに全て手作りなんです」と代表取締役社長の橋本謹嗣さん。

キレ味の良さと深みのある吟醸香と味わいがある初亀には、どのようなおつまみが合うのでしょうか。「自然薯をスライスして、のりとわさび醤油をかけたものとよく合いますよ」と橋本社長。17代目の康弘さんは「チョコレートと日本酒。とくにホワイトチョコレートと合うんです」と、ヨーロッパで行われた日本酒のイベントで知ったという新しい飲み方を提案してくれました。

昭和52年には日本で一番高額な酒として、当時の小売価格1万円の日本酒『亀』を販売した初亀醸造。今も「特別な日に飲むような最高級のお酒を作りたい」と橋本社長。康弘さんは、「今あるものを改善し続けて、最終的にモダンだと感じてもらえるのを作りたいですね」といいます。長きに渡ってこの地で愛されている初亀醸造の、酒造りにおける自由な発想に今後も期待が持てます。

 

杉錦/杉井酒造

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静岡県で唯一本みりんの製造も行う歴史ある酒蔵

藤枝市小石川町に蔵を構える杉井酒造は、天保13年(1842年)から続く酒蔵。6代目となる杉井均乃介社長が杜氏も兼ねる蔵元です。静岡には27の酒蔵があり、社長や専務が杜氏を兼ねている酒蔵は9社ほど。蔵元杜氏は自由に酒造りの構想を練ってそれをそのまま酒造りに反映させることができます。一方で鑑評会の出品酒のように規定から踏み出せないようきっちり造る能力も必要です。

そんな緊張感のある酒造りですが、杉井社長が杜氏になって3年目(平成15年)から、全国新酒鑑評会で3年連続金賞を受賞し、その後も入賞を果たしています。

杉井酒造は、『生もと・山廃仕込み』という、江戸時代に主流だった昔ながらの日本酒の造り方が特徴。また、近年の日本酒の市場は甘口が好まれる傾向にありますが、「杉錦は酸味があり、糖分少なめの辛口が主流です。お魚なら白身魚よりカツオ、『へそ』や『はらも』なんかが合うと思います」と杉井社長。

今後どんなお酒を作っていきたいかを伺ったところ、「やりたいと思ったことは、だいたい試したんです。酒造りはひとりでやるものではないから、蔵人全体の技量の向上というのが今のテーマですね」と答えが返ってきました。

杉井酒造では、2016年度の藤枝セレクショに選ばれた〝純米本みりん飛鳥山〟などの昔ながらの商品や、新しい試みとして静岡県立藤枝北高等学校と日本酒造りを行っています。

 

喜久醉/青島酒造

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米も水も地元産。この地域でしかできない酒造りを追求する

江戸時代中期に旧青島村(現:藤枝市上青島)で創業した青島酒造。以前は海外で働いていたという5代目の専務兼杜氏の青島孝さんが家業を継いだのが平成8年(1996年)の秋のこと。帰国後、静岡酵母開発者の河村傳兵衛氏に弟子入りし、杜氏名「傳三郎」を与えられました。2004年に杜氏となりますが、「杜氏が変わったことを気づかれないようにする」と、喜久醉の味を守っていくことを目標にしていたといいます。

青島専務は、酒造りに携わった当初から「酒造りをやるからには米作りから関わりたい」と考えており、地元の自然農法の稲作農家の松下明弘さんと共同で酒米・山田錦の栽培を始め、「酒造りは米作りから」を実践しています。水は清流大井川水系南アルプスの伏流水を地下60mから汲み上げたものを使用し、良質な米と水を使った酒造りを行っています。作る量は年間に一升瓶で8万本。基本的に手作りなので、この規模にとどめているそうです。

独特で品の良い香りと、酸味が少ないやさしい口当たりが特徴の喜久醉。どんなおつまみが合うか聞いてみると、「魚料理や新鮮なお刺身などどんな料理でも合いますよ。繊細な料理の味を邪魔しない酒でありたいと思っているんです。お酒は脇役だけど、なくてはならない名脇役。そういう立ち位置でありたいですね」と青島専務。

青島専務が酒造を継いでもうすぐ20年。帰国後の10年は酒造りの修行と米作りに精を出し、次の10年は酒造りにおける強靭なチームを育てることを意識していました。そして、この先の10年はお米作りを充実させることが目標だといいます。この土地でしかできない酒造りと、「酒蔵の新たなあり方」を提案し続けています。