ふわりと薫る海の碧が、橙の炎の中で硝子へ溶けていく。
ふ、と優しく息を吹き込めば、煌々と輝く硝子がふわりと広がる。
冷えた空気に触れ、硝子は炎の赤の代わりに、世界に1つだけの海の碧をまとう。
ふと鼻をくすぐるスペシャリティコーヒーの香り。私のために淹れてくれた珈琲。
元鰹節工場だったという硝子工房に、海香る不思議な空間がそこに広がっていた。
ただの工場にしかみえない建物に入ると、中では白い壁に並んだ色とりどりのガラスの作品が出迎えてくれる。
どことなく非日常的な空間だが、何故かほっとするのは、ガラス工房のお二人と、コーヒー屋の店主さんの親しみやすい雰囲気のおかげだろう。
まず、工房方によるデモンストレーションが始まった。説明をしながらやっている様子をみると、いとも簡単にやっているように見える。
1人20分程度の体験時間で出来るとのこと。くじを引いて順番を決めて、参加者みんなでおしゃべりしながらのんびりと順番待ち。
早速コーヒー屋の店主さんが豆を挽いてドリップを始めた。
ガラス工房の近くにお店を構える「caffe maco」さんこだわりの珈琲は、2日前に店主さん自ら焙煎し、寝かしておいたものだそう。
焙煎してすぐの若い味から、寝かせることで毎日味が変わる。好みは人それぞれ。自分の好きな味を探せばいいんです。コーヒーに正解はない、いやむしろ全て正解なんですよ、と笑う店主さん。
お願いするとその都度すぐにコーヒーを淹れてくれる。
せっかく来ていただいたんだから、一杯だけじゃ申し訳ない。たくさん味わってください。と勧められ、贅沢に何杯もいただいてしまった。なんと、普段お店は夜11時までやっているとのこと。今度飲みに行って豆も買おう。
他の人の作品作りをみんなでのぞきこみつつ、順番を待つ。美味しいコーヒーと、めずらしいガラス吹きの様子が話のタネになり、初めて会った参加者同士でも会話が弾む。
海色ガラスは、熱したガラスに細かな青色のガラスをまとわせて、さらに熱して空気を吹き込み、ころころと回しながら形を整えていく。先生が1人1人付きっきりで丁寧に教えてくれるので、何とか形になる。
青色のガラスの付け方や、息の吹き込み方で、同じ材料を使っていても全員違う色形になっていく。
簡単そうに見えるが、実際にやってみると中々きれいな形はできない。
さいごにこん、と小気味良い音と共に、棒からコップが切り離された。バーナーで底を整えてもらい、冷却機に入れてもらう。
厚いガラスのほうが丈夫そうなイメージがあるが、実は外側と内側の温度差で割れやすくなるのだという。
私たちの手元に届くまできちんと管理してくれる。丁寧な仕事だ。
「ガラス工房月想う」では、吹きガラス教室を実施しているという。ほとんどの人が1人で参加し、仲間を作りながらわいわいと作品作りを楽しんでいるらしい。教室や体験では、今回のようにマンツーマンでしっかり作品作りをサポートしてくれるとのこと。
最初から最後まで1人でできるようになるためには1年ほどかかるという。人によって身に着けるまでの時間は変わるけれど、必ず最後はみなさん出来るようになります。と工房の先生は肯いてくれた。
実は、コーヒーを淹れるのに、駿河湾産の深層水を使っているんです。最後に、店主さんが教えてくれた。
元鰹節工場の工房、海色をまとった硝子、海が育んだ珈琲、すべてに海が薫る時間でした。
これから、わたしの部屋にも海の碧が薫る日々が来るのを想像しながら、いそいそと作品を迎えに行くのです。
普段の体験の写真
美しい作品が並ぶ
きちんとそろえられた道具たちまでも、アートのよう。
レポーター:marina